名著情報

読書にあたっての予備知識

ヘルマン・ヘッセ「車輪の下」(1905年)

車輪の下」について

 「車輪の下」は、ヘルマン・ヘッセの自伝的長編小説であり、1905年に発表されました。主人公は神学校に通う少年で、自分の生き方に疑問を持ち、敷かれたレールから外れた結果、酒に酔った勢いで川に落ち、溺死したかのような表現とともに物語は終わります。これは作者自身が神学校から脱走し、自殺未遂をしたことを原体験として書かれたものです。

 

 自伝小説であるため、心理描写や人物描写が非常にリアルであり、主人公の気持ちが読者の心にも伝わってきます。周囲からの期待を一身に背負い、その軋轢の中で心を踏み潰されていく少年の姿が描かれています。この作品は、ヘッセの作品の中でも特に有名な作品の一つで、日本でも広く読まれています。なお、邦訳本によっては『車輪の下に』や『車輪の下で』と題される場合があります。

 

 

20世紀前半のドイツの叙事文学について

 20世紀前半のドイツの叙事文学は、古い形式を取り上げさらに発展させた長編小説という独自の特徴を持っています。第一次世界大戦前のドイツの叙事文学は、ロマン主義自然主義の影響を受けたものが主流でしたが、第一次世界大戦後には、現代主義や表現主義の影響が強くなっていきます。

 

 代表的な作家には、トーマス・マンヘルマン・ヘッセフランツ・カフカ、エルンスト・ユンガーなどがいます。トーマス・マンは、『魔の山』や『ヨセフとその兄弟』などの長編小説で知られ、社会的な変化や人間の苦悩をテーマにした作品を多く発表しました。ヘルマン・ヘッセは、『シッダールタ』や『車輪の下』などの自伝的な作品で知られ、市民社会における人間性をテーマに掲げ、世界的な成功を収めました。

 

 フランツ・カフカは、短編小説や長編小説などで、現代社会の不条理さや個人の孤独といったテーマを掲げ、独特な文体と象徴的な表現で世界的な名声を博しました。また、エルンスト・ユンガーは、第一次世界大戦を経験した作家で、『鋼鉄の嵐の中で』などの作品で戦争と個人の自己犠牲を描き、その荒々しい表現と哲学的な深みが評価されました。

 

 20世紀前半のドイツの叙事文学は、社会的・政治的な状況が多岐にわたり、個性的な作家たちが、それぞれの思想や表現を通じて、多彩な世界観を提示しました。

 

 

ヘルマン・ヘッセについて

 ヘルマン・ヘッセは、1877年にドイツで生まれ、1962年にスイスで亡くなった作家・詩人です。彼は20世紀初頭に活躍し、自伝的要素の強い小説や詩を多く書きました。代表作には『車輪の下』『シッダールタ』などがあり、彼の作品は内省的なテーマが多く、人間の苦悩や精神的な探求を描いたものが多いことが特徴です。彼の作品は多くの言語に翻訳され、世界中で愛読されています。ヘッセはノーベル文学賞を1946年に受賞し、その功績が称えられました。